source : 2012.09.19 Business Journal (ボタンクリックで引用記事が開閉)
■第2のリクルート事件? “疑惑まみれ”JAL再上場の舞台裏
笑いが止まらないとは、このことだろう。日本航空(JAL)の株式再上場によってボロ儲けする、債務超過企業の支援を行う国策企業・企業再生支援機構(以下、支援機構)のことである。
放漫経営のあげく破綻し、支援機構から役員の派遣を受け入れるとともに、3500億円もの出資、つまり国の支援を受けたJALは、既存株主や、1万6000人にのぼる職を失った従業員、運航便の廃止などで不便を強いられた利用者らの“犠牲”と引き換えに、経営の「V字回復」を果たした。
これまで「経営の神様・稲盛和夫氏の下での再生美談」一色だったが、ここにきて、東京新聞(8月7日付)、「週刊文春」(文藝春秋/8月9日号)をはじめとするメディアが、ある疑惑をやり玉に挙げ始めた。
その疑惑とは、JALの稲盛名誉会長が同じく名誉会長を務める京セラに関するものである。京セラを含む8社は、JALの会社更生手続きが終了する直前の2011年3月15日、第三者割当増資により合計635万株を取得したが、これはインサイダー取引ではないか? というものだ。もちろん、JALは3月時点では非上場会社であるため、インサイダー取引を行っていたとしても違法ではない。しかし、この取引が“目前に控えた上場を見越して”行われたものであるとすれば、問題視されてしかるべき行為であろう。
この疑いについて、証券業界関係者は次のように解説する。
「第三者割当増資による株式取得額は、1株当たり2000円です。他方、JAL株の売り出し価格は未定(9月10日決定予定)ですが、JALは今のところ、3790円と想定しています。つまり、250 万株を取得した京セラは、上場すれば約95億円相当の株を、こっそりその半額の50億円で手に入れるかたちになります。まさに“濡れ手で粟”ですね」
さっそくこの問題について、国会でも取り上げられることとなった。8月21日、国から支援を受け、法人税の免除なども受けるJALが、航空業界の公正な競争を阻害する恐れがあるとされる件で、衆議院国土交通委員会の集中審議が開かれた。
同委員会で、富田茂之・公明党衆議院議員は参考人として出席する大西賢・JAL会長に対し、次のような質問をした。
「京セラなど8社が、JALの上場に際し、(3月に取得した株を)売り抜いて利益を得るなら、やはり不正があったんじゃないかと思われる。(京セラなど)8社に、株を売らずに、安定株主として今後もJALを支えてもらいたいという話は、されているのか?」
質問を受けた大西氏は、「安定株主が欲しいことはもちろんだ」とだけ答えるのが精いっぱいだった。つまり公式の場でJALは、稲盛名誉会長の会社である京セラが、JAL株を売り抜けて利益を上げる可能性を否定しなかったのである。これでは、88年に「値上がり確実の未公開株」を政官財にバラまいたリクルート事件と同じ構図と見られても、おかしくないのではないか。
加えて、JAL再上場をめぐっては、より大きな疑惑がささやかれている。
「JAL再建を主導した支援機構は、JALのイグジット(出資の回収)が最大の課題でした。そこで、大量リストラやパイロット育成廃止などの行き過ぎたコスト削減により、利益を高くし、再上場時のJAL株式の初値を目いっぱい引き上げ、高値で売り抜けるために躍起なのです」(支援機構関係者)
今まで国の全面的な支援の下、とにかくコスト圧縮に取り組んできたJALだが、上場後は一民間企業として、競合他社との激しい競争にさらされ、“攻め”の経営も強いられることになる。そのため、新規投資や採用などにより、これまで一時的に圧縮されてきたコストが増加してくることで、膨らまされていた利益も、徐々に適正な水準に戻っていかざるを得ないだろう。つまり、JALの業績は再上場時をピークに下降する可能性が高く、株価も「支援機構が売り抜けた後、下落するだろう。こうした事情を知ってか、海外機関投資家は、今回の再上場に伴うJAL株取得にほとんど関心を示していない」(市場関係者)との見方が有力だ。
「ウォールストリートジャーナル(日本版)」(8月21日付)も、JAL再上場を、上場後に株価が半値まで下落したフェイスブックと比べつつ、「株価が持ちこたえるかどうかは、世界経済や燃料価格市場の状況を見守る必要がある」と報じた。
あるベテラン証券マンは、多くの個人投資家が、国や証券会社に踊らされて株を購入し、痛い目に遭う可能性を指摘する。
「証券会社が煽れば、そりゃあ初値は上がるだろう。だが、市況も悪いし、今後成長の見通しもないのでは、株価が下がるのも時間の問題だ。まるで、ブラック・マンデー(ニューヨークの株暴落)後の87年に行われた、政府保有NTT株の第二次売り出しと同じ構図ではないか。あの時、売り出し直後は野村證券などが買い支え、高値を維持し、国は7兆円を超える売却収入をせしめ、証券会社も手数料にありついた。しかし、株価はその後低落し、株を購入した個人投資家たちは、結局高値で株をつかまされ、損をした格好となった」
■安全を犠牲にしてつくられた“ピカピカの”財務
そして今、個人投資家たちにババを引かせようと虎視眈々なのは、支援機構だ。JALの中堅パイロットによれば、JALは上場審査の対象になる直近の決算がピカピカになるよう、本来使うべきカネもとことんケチり、利益を膨らませているという。
「例えば、パイロットの養成も完全にやめてしまいました。安全運航やモチベーション維持のために再開してくれという、現場からの切実な要求に対しても、幹部は言葉を濁すのです」(同)
必要な支出を無理にカットし、利益を増やす。実際に支出しないのだから粉飾とは違うが、企業の体力を削ぎ、事業価値は毀損する。
前出のパイロットによれば、コスト削減の一環として、パイロットを養成するために採用された訓練生は副操縦士に、副操縦士は機長に昇格するために必要な養成がなくなり、それぞれ「副操縦士になる夢」「キャプテンになる夢」を断たれ、モチベーションが喪失した現場では退職者が後を絶たない。その結果、日本に就航したLCC(格安航空会社)3社に所属するパイロットの約7割を、JAL出身者が占める事態にまでなってるという。
こうした事態は、利用者への利便性にも影響を及ぼしかねない模様だ。
「JALエクスプレスという、JALの100%子会社がある。小型のボーイング737型機を使用し国内各都市間を結んでいますが、そこでもパイロットの2割が退職してしまいました。現在は抜けた分をJALからの出向者で持ちこたえているが、何かあったら人繰りがつかずに、欠航が玉突的に起きかねない」(ベテランパイロット)
それでも、パイロットはまだましだ。客室乗務員(CA)に至っては、安全運航を支える要員計画がすでに破綻しつつある。
「私たちはシフト勤務をしているので、土日が休みの普通の人と会うには、年休を取る必要がありますが、その年休が取れません。親の四十九日や、本人の結納ですら休めないありさまです」(JALのCA)
「あまり表には出ていませんが、以前からCAが交代で休憩できた成田—パリ便でも、最近は乗務員数削減で11時間立ちっぱなし。そんな中で、機内食を運ぶカートが倒れたり、機内を暴走したりするトラブルなども頻発しています。みんなくたくたで、安全面でも影響が出ています」(別の同社CA)
JALは12 年3月期連結決算で、営業利益2049億円、純利益1866億円を挙げ、「V字回復」をアピールした。だが、8月3日に発表した13年3月期予想は、営業利益が549億円、純利益も566億円と、それぞれ減る見通し。その結果、1株当たり純利益は1029円から717円にダウンする。株価が財務を反映するとすれば、上場後の株価は下がると考えるのが自然だ。
前出の国土交通委員会で、「今後JALはどういう未来を展望しているのか」と問われた大西会長は、「この業態は変動幅が高く、いったん谷を迎えると、あっという間に赤字になる。私どもは、まだ再生途上だ」と答えた。
乗客数も搭乗率も、はかばかしい回復を遂げていないJALは、本業の再生が途上のまま、支援機構という国策企業だけがボロ儲けして去っていく。
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