2012年、各国の経済はどこへ向かうのだろうか。オンライン・トレーディングおよび投資を専門とするサクソバンク(本社:コペンハーゲン、デンマーク)のチーフ・エコノミスト、ステーィン・ヤコブセン氏に、国際ジャーナリスト大野和基氏が訊いた。
source : 2012.03.21 Reuters.co.jp (ボタンクリックで引用記事が開閉)
■金融危機「クライシス2.0」の到来は?
大野 : 『2011年第4半期世界経済予測』について、本格的なクライシスに至る前の最終段階であり、このまま“extend and pretend”の状態が続けば、2012年の第1四半期か第2四半期にクライシス2.0が到来することになると予想されていました。今四半期はどのような時期になると予想されていますか。
ステーィン : 基本的にその予想は当たり、イタリア、スペイン、ポルトガル、アイルランド、ギリシャは今現在、クライシス2.0に突入しています。クライシス2.0は政府の無能と政府に対する不信と定義していますので、南ヨーロッパについては、本格的なクライシス2.0に突入していることは確かです。
大野 : 今期の経済予測で書かれているとおり、「現在進行中の欧州危機」「公的債務バブルの終焉による総需要の世界的な落ち込み」「社会的緊張の高まり」というクライシス2.0が起きる要素が現在すべて揃っていますが、あとは恐怖を感じながら、それが起きるのを待つしかないのでしょうか。
ステーィン : それはすばらしい質問です。人生にも同じことが言えますが、投資においても最高の機会は、フレキシブルになって、ただ待つしかない時があります。今回の経済予測を読んでいただくとご理解いただけると思いますが、私はクライシス2.0が起こることをかなり前から予言していました。それでも私自身は恐怖を感じません。むしろ非常に楽観的です。というのも、第一に社会が借金やレバレッジによってつき動かされていたという視点から見ると、もう限界に来ているからです。30年前に始まった借金漬けの終焉です。このこと自体はいいニュースだと思います。
私がとても前向きである2つ目の理由は、日本であれ、フィンランドであれ、デンマークであれ、ギリシャであれ、アメリカであれ、今日ほど、政府が人の生活において大きな役割を果たしていることはありません。つまり信用というケーキに例えた場合、政府はそのケーキをどんどん食いつぶしているということです。民間セクターにはケーキの粉しか残っていません。しかし、それと同時に皮肉にも、民間には史上最高の貯蓄率があるのです。
マクロの視点から言えば、解決はすこぶる簡単です。民間セクターを奨励し、解決策の中にとり入れてしまうのです。しかし、日本、ヨーロッパ、アメリカで現在行われている政策は、投資する気持ちを削がれることしかありません。第一に増税をし、緊縮政策を実行し、エネルギー税を課し、ありとあらゆる税金を課して、可処分所得から搾取しようとしています。これこそ、まさに市場に社会不安が生じる理由です。
私が前向きである理由に共通するのはただ一つだけです。つまり、今の状態より悪くなりようがないのです。国を運営する能力の点からみても、おそらく今の政治システムは史上最悪です。ギリシャやイタリアを見ればわかります。選挙で選出されていない官僚が支配しているのです。もう限界です。
■2012年4月、注目すべきフランス大統領選
大野 : ヨーロッパでは今年重要な選挙が多く行われます。ステーィンさんはTradingFloor.comのブログでも頻繁に言及されていますが、今後EUはどのようになっていくと考えていますか。
ステーィン : 最初の選挙はフランスで4月22日に行われますが、それ以前に劇的なことが起こることは考えにくいと思います。サルコジ大統領がもし再選しなければ、それは彼がヨーロッパの救世主として自分を売り出す能力がなかったという、非常に明白な印になりますので、その点では重要な選挙です。恐らくサルコジ大統領はうまくいかないのではないでしょうか。
そして、それは今までの仏独を軸としたEUの終焉を意味することになるでしょう。ここ10年のEUの政治とそれ以前の30年で著しく変化があったのは、27カ国ではなく、フランスとドイツの2カ国がヨーロッパを運営している状況になったということです。それは変化する必要があるでしょう。
ヨーロッパ中で行われる政治選挙は、protest(抗議活動、反対活動)の選挙になると思います。すでに2011年に起こりましたが、2012年もそれは続くと思います。
社会不安が非常に高ぶっている理由は、国民の可処分所得が、紙幣の印刷によって浸食されているからです。有権者の目から見て、紙幣の印刷は自分たちの可処分所得を失っているということに他なりません。このような事柄も、今年ヨーロッパで行われる選挙で、現職の議員やリーダーをやめさせる方向につながると思います。
■各国の経済動向に迫る アメリカ大統領選、中国のバブル、続く円高
大野 : 同じく今年大統領選が行われるアメリカについて、2012年はどうなると思われますか。
ステーィン : アメリカについては長期的にみて、私は非常に楽観的です。オバマ大統領や選挙があるからではなく、アメリカ市場が非常に労働力の可動性が高く、世界のどの市場よりも資本にアクセスできるからです。アメリカの企業は資金の70%を金融市場から獲得していますが、ヨーロッパや日本では資金を銀行ローンから得ています。アメリカと比べると、ヨーロッパや日本は著しく不利です。
そのうえ、アメリカの資本市場はどの市場よりも数倍大きい。ドル相場からみてもヨーロッパのほとんどの国に対しては低いので、アメリカについては楽観的に捉えています。
今四半期の世界経済予測にも記載しましたが、アメリカでの成長は過大評価されています。しかし第2、3の四半期は予想よりも悪くなると思っています。そうはいってもアメリカはヨーロッパや日本よりもかなりいい状況になるでしょう。
大野 : アメリカ経済はよくなりつつあるように感じていますが、その視点から見ると、オバマ大統領が再選した方がいいのでしょうか。
ステーィン : もちろんです。アメリカの選挙の歴史をみると、経済の状態が再選されるかどうかを左右しており、大統領選にとって中心的なテーマとなります。
大野 : また前回競争力の低下について触れられた中国経済についてはいかがでしょうか。
ステーィン : 実は私は中国から戻ってきたばかりなのですが、中国は私にとって謎の国です。中国を見て、何かを中国の国内市場に輸出する絶好の機会であると考える人は夢の中に生きています。中国は中国のために生きて中国のために生産しているのです。中国はそれだけで十分大きな市場です。
大野 : 中国ではバブルがはじけているのでしょうか。
ステーィン : 中国は投資手段が限られ、十分な投資手段がないために、すべてがバブル状態です。しかしシステムがアウトサイダーから完全に閉鎖されているかぎり、維持できるバブルです。つまり中国はバブル状態だけれども、はじけていないということです。
大野 : 昨年大規模な為替介入が行われたにもかかわらず、円高が続いています。2012年もこの円高基調は続くのでしょうか。
ステーィン : 円高の理由の一つは日本がデフレであることです。デフレの環境にある通貨はインフレ経済と比較して、強さを増さなければなりません。日本のCPI(消費者物価指数)が1年でマイナス2%になり、デンマークが2%上がれば、日本の購買力は4%増すことになります。通貨はそのプレッシャーに耐える必要があるのです。デフレ環境にあるかぎり、円高であり続けると思います。
■気になる今後の相場展開は?
大野 : 今後の相場の展開について、どのように思われますか。教えてください。
ステーィン : まず世界中の中央銀行がかなりの量の紙幣を印刷しているという事実を受け入れなければなりません。これはより高いリスクを取らざるを得ないことを意味します。短期利息が非常に低いので、私なら貯金や短期投資はしません。しかしまともなリターンを維持するためには、より高いリスクの可能性を受け入れなければなりません。これはコモディティや株が、景気循環に比べて高くなることを意味します。短期的には50対50の確率で高くなると思います。どちらとも判断つきかねる数字だとご指摘を受けるかもしれませんが、私は90%の確率で上がると軽く言うような、予想屋ではありません。
しかし金価格については、90%の確率で上がると思います。世界が紙幣を印刷する一方で、現金投資は有形資産を見つける必要があるからです。もし金価格がすぐに上がらなければ、私はもう少し買い足します。これからの2、3カ月以内に1オンス当たり2,000ドルを簡単に超えると思います。
どのコモディティもそうですが、特に石油について私はとても強気だと考えます。世界の余剰能力の約半分はサウジアラビアが持っていますが、今では2007年の景気循環のピーク時よりも多く石油を産出しています。ギリシャは別として、石油は株式市場の全体的な長期的利得にとっては、最大のリスクであり続けます。
大野 : 今年もっとも安全な投資は何だと思いますか。
ステーィン : 現金による投資です。今年後半に機会が出てきた時に、安くなった株をたくさん買うことができるからです。今年全体を見ると、市場はプラス・マイナスゼロに終わると思いますが、途中で20%、25%と下がった時に買うことができるように、現金が必要です。世界中で起きていることを視野に入れると、調整が起きようとしたときに、すべての資金を投資できるように準備してほしいと考えています。
大野 : 貴重なアドバイスどうもありがとうございました。
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サクソバンク本社 チーフ・エコノミスト ステーィン・ヤコブセン氏
1989年コペンハーゲン大学経済学部を卒業後、シティバンク(コペンハーゲン)に入社。その後、ハフニア・マーチャント・バンクに移り、セールス&オプション責任者に就任。92年にチェース・マンハッタン(ロンドン)のバイスプレジデントとなり、スカンジナビアセールス責任者を務めた後、チェース・マンハッタン・プロプリエタリー・トレーディング・グループへ。95-97年にスイス銀行(ロンドン)で自己売買トレーダーおよびフローデスク責任者、1997年にはクリスチャニア(現ノルディア)銀行(ニューヨーク)でFX&オプショントレーディングのグローバル責任者となり、1999年にUBS(ニューヨーク)のグローバル・プロプリエタリー・トレーディング・グループのエグゼクティブ・ディレクター。その後サクソバンク(コペンハーゲン)のCIO(最高運用責任者)、リムス・キャピタル・パートナーズのCIOを経て、2011年3月より現職。自己売買とオルタナティブ投資の分野で20余年の経験を有す。
国際ジャーナリスト 大野和基(おおの・かずもと)氏
東京外国語大学卒業後、1979年に渡米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学んだ後、ジャーナリストの道に進む。以来、国際情勢の裏側や医療問題に関するリポートを発表するとともに、ジョージ・ソロス氏や元CIA長官、映画監督マイケル・ムーア氏、えひめ丸事件の乗客、北朝鮮に拉致された曽我ひとみさんの米国人夫ジェンキンス氏の家族など、要人・渦中の人物への単独インタビューを次々と行ってきた。単独での海外現地取材が圧倒的に多く、年間フライト数は80回を越える。
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