source : 2012.08.31 朝日新聞 社説 (クリックで記事開閉)
旧日本軍の慰安婦問題をめぐって、日韓関係がまたきしんでいる。
きっかけは、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領が今月、竹島に上陸したのは、慰安婦問題で日本政府の対応に進展がなかったからだとしたことだ。
これに対し、野田首相が「強制連行の事実を文書で確認できなかった」と語ったことが、韓国国内で「歴史の歪曲(わいきょく)」などと反発を広げている。
歴史問題を持ち出してナショナリズムをあおるような大統領の言動には首をかしげる。
だが、日本の政治家の対応にも問題がある。
見過ごせないのは、松原仁・国家公安委員長や安倍晋三元首相ら一部の政治家から、1993年の河野官房長官談話の見直しを求める声が出ていることである。
河野談話は、様々な資料や証言をもとに、慰安所の設置や慰安婦の管理などで幅広く軍の関与を認め、日本政府として「おわびと反省」を表明した。
多くの女性が心身の自由を侵害され、名誉と尊厳を踏みにじられたことは否定しようのない事実なのである。
松原氏らは、強制連行を示す資料が確認されないことを見直しの理由に挙げる。枝を見て幹を見ない態度と言うほかない。
韓国の人たちにも、わかってほしいことがある。
河野談話を受けて、日本政府の主導で官民合同のアジア女性基金を設立し、元慰安婦に対して「償い金」を出してきた。それには歴代首相名のおわびの手紙も添えた。
こうした取り組みが、韓国国内でほとんど知られていないのは残念だ。
もっとも、今回に限らず日本の一部の政治家は、政府見解を否定するような発言を繰り返してきた。これではいくら首相が謝罪しても、本気かどうか疑われても仕方ない。
5年前、当時の安倍首相は当局が人さらいのように慰安婦を連行する「狭義の強制性」はなかった、と発言した。
その後、米下院や欧州議会が慰安婦問題は「20世紀最悪の人身売買事件の一つ」として、日本政府に謝罪を求める決議を採択した。
自らの歴史の過ちにきちんと向き合えない日本の政治に対する、国際社会の警鐘である。
河野談話の見直しを求める政治家は、韓国や欧米でも同じ発言ができるのだろうか。
野田首相も誤解を招く発言は避け、河野談話の踏襲を改めて内外に明らかにすべきだ。
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