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2012/11/28


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【国家を哲学する施光恒の一筆両断】「次世代に借金を残すな」はもうやめよう

source : 2012.11.28 産経ニュース (クリックで引用記事開閉)
「若者の持家離れ」や「若者の車離れ」など「若者の~離れ」という表現を最近よく耳にしますね。晩婚化を指して「若者の結婚離れ」とも言われます。

若者が「草食化」し、欲望を失ったことがその理由だという奇天烈(きてれつ)な指摘をしばしば耳にしますが、そうではありません。やはり経済的理由が大きいのです。日本では長くデフレ不況が続いています。デフレ下では、物価や賃金が下がる反面、お金の価値が上がります。モノを買わずにお金を手元に残しておいた方が合理的なわけです。

非正規就業者の増加も「若者の~離れ」現象の要因となっています。25~34歳の男性の非正規就業者の割合は90年代初頭はせいぜい3%程度でしたが、現在は16%。家や車のローンは定期的な収入の見通しがあってこそ初めて組む気になりますよね。非正規就業の若者は家や車が欲しくても、なかなか手に入れることができないのです。

「結婚離れ」も経済的要因が大きいとみられます。厚労省の平成22年度の調査では、30歳代の男性の未婚率は、正規就業者では31%ですが、非正規就業者では76%に跳ね上がります。これでは少子化も進むはずです。

ところが、最近の政治論議で必ずと言ってよいほど持ち出されるのが、「次世代に借金を残すな!」という論理です。実際、政府は、デフレが進んでいるにもかかわらず、事業仕分けなどで公共投資を大幅に削り、緊縮財政を続けてきました。ここ数年は公務員の採用も大幅に減らしています。

これはデフレの現状から目を背けているとしか言いようがありません。「若者の~離れ」現象を「草食化」で片づける傾向と相通じるものがあります。本当に次世代のことを真剣に考えているとは思えません。いま必要なのは、「借金を残すな」と声高に言うことではなく、次世代に何を伝え、残していくべきか-を真剣に議論することではないでしょうか。最近の政治論議には、こうした視点が決定的に欠けているように思えます。

残すべきものは数多くあります。たとえば、勤勉に働いて一人前になり、自らの手で家族を養っていくことを尊ぶ勤労倫理です。災害に強い安全な国土や、多様な伝統や風土を保つ地域社会も含まれるでしょう。

ところが、現実には、公共投資を極限まで削り、緊縮財政を続けた結果、デフレは深刻化し、若者の安定した雇用は失われ、勤労倫理が忘れられつつあります。災害対策は進まない一方で、地域社会の荒廃は深刻化しています。

そんな中、自民党の安倍晋三総裁は、先日発表した政権公約で、デフレ脱却を第一目標に掲げましたね。そのために大規模な金融緩和や、国土強靭化に向けた公共投資を積極的に行うことも明言しました。これに対し、民主党や一部マスコミなどは異常なほど反発しています。緊縮財政路線を今後も続け、政府の借金をこれ以上増やすなというわけです。

でも、民主党などは、デフレ脱却に向けた有効かつ現実的な代替案を示していません。それでは一方的な反論だと言われても仕方がありません。「日本人が大切にすべきものとは何か」「次世代に伝え残すべきものとは何か」-についても真剣に議論した形跡はありません。

だからこそ提案します。衆院選では「借金を残すな!」といった類いのレッテル張りはもうやめにしましょう。それよりも次世代に伝えていくべき大切な事柄は何かを真剣に問い、必要な経済的、政治的な手立てを議論すべきなんです。たとえ借金したとしても、次世代に残すべきものはたくさんあるわけですから。

◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇

■施 光恒(せ・てるひさ) 昭和46年、福岡市生まれ、福岡県立修猷館高校、慶應義塾大法学部卒。英シェフィールド大修士課程修了。慶應義塾大大学院法学研究科博士課程修了。法学博士。現在は九州大大学院比較社会文化研究院准教授。専攻は政治哲学、政治理論。趣味はアルゼンチン・タンゴ。




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