まるで映画「恋のデジャ・ブ」のような堂々巡りを映し出して終わってしまったが、世界は、今後どうすればこの堂々巡りを抜け出す幸運を見出すことが可能か?
本年度第4四半期および2013年以降の見通しについて、サクソバンクのチーフ・エコノミスト、ステーィン・ヤコブセン氏に、国際ジャーナリスト大野和基氏が話をきいた。
source : 2012.12.01 Reuters.co.jp (ボタンクリックで引用記事が開閉)
■現実逃避を繰り返し堂々巡りの世界経済の行く末は?
大野 : 東京で開催されたIMF、世銀総会で議論されたことが、世界経済にプラスになると思いますか?
ステーィン : 思いません。こういう会合は基本的に従来の見解を確認するべく、政策立案者のために持たれるものです。私がかねがね"pretend and extend" (時間を稼いで引き伸ばし、危機がないふりをする)と呼ぶやり方を実行しているだけです。
大野 : 現在の世界的経済危機への各国の対応には、あまり期待されないということですか?
ステーィン : 構造改革の必要性について誰もが口先では支持しますが、実際には誰も改革を実行しないと思います。 と申しますのも、改革を本当に実行すると有権者の怒りを買うことになるからです。これは日本でもヨーロッパでもアメリカでも同様です。
政治的側面では、実行するよりも口にするだけのほうが都合が良いのです。市場が政治家に責任を問わないかぎり彼らはこのままでいたいと考えるのでしょう。
大野 : 今の不安定な状況から脱するために、あとどれくらい時間がかかると思われますか?
ステーィン : その質問には回答が2つあります。
一つは過去5年間やってきたことを、そのまま続けるという選択肢。その場合、回復するまでさらに4~5年かかり、結局<失われた10年>と呼ばれることになるでしょう、これが私の中心的な考えです。
もう一つは、マクロ政策をとる政治が、金融改革を実行せずに口先だけで改革を言う擬態をとり続けることで、2013年は飽和点に達し、転換の時期になると思います。
飽和点を迎えると暴動や緊張が生まれ、たとえばドイツの政治すらも変わる可能性もあります。
成長という点でみると、2014年の前には何も起こらないと言ってよいでしょう。
最悪のシナリオは、今政策立案者が出している政策を続けて、現在の不安定な状況を脱するのに5~10年かかってしまうことです。
大野 : 世界経済における日本の立場はどうなっていくとお考えですか?
ステーィン : 短期的には変わらないと思います。長期的には日本には回復する機会が十分あります。
と申しますのも、将来のビジネスモデルは労働コストではなくオートメーション化にあり、日本はその点でアドバンテージがあると考えるからです。
まず一つ目は、日本は世界で最大の特許権を持っています。二つ目は、ロボット産業は日本では既に大きな産業です。IT産業について申しますと、日本には良い企業は数多くありますが、現在は国内市場が際立って弱くなっているため、成長が阻害されています。株式の持合いをするカルチャーもその一因と考えられます。
2013年の日本に対する私の強い要求は、ドル高になりインフレとなることで日本経済が復活する、私はそれは可能だと考えています。
■ミクロ経済への転換が求められる世界経済
大野 : 基軸通貨であるドルの今後はどうなると予測されますか?
ステーィン : ますます強くなると思います。誰が大統領になったかは関係ありません。
ヨーロッパで何か起きるかにも関係ありません。それは考えればわかることです。
アメリカの資本市場規模は他国を引き離して圧倒的で、資本の予備がどこよりもはるかに大きいということです。
また、エネルギーに関して、アメリカは天然ガスに加速度的に移行しつつあります。非常に高くつく原油を安価な天然ガスに置き換えようとしており、パラダイム・シフトが期待できます。
アメリカは、エネルギー消費を環境汚染の元になる高価な石炭や石油から、より安いよりクリーンな天然ガスに変える点で、最もアドバンテージを持っています。
今後もアメリカはかなり優勢だと思います。ドルについては私は、1日、1週間、1カ月、1年、10年どれをとっても強気という見方を持っています。
大野 : 話を少し変えて、ステーィンさんは常にマクロ経済よりミクロ経済に重点を置かれていますね、それはどのようなお考えからでしょうか?
ステーィン : もちろんそう考えています。なぜなら、我々は<経済的実験>の中で生きているからです。アインシュタインの<狂気>の定義は<それは異なる結果を期待して、同じ実験を繰り返し続けること*>ですが、経済的に見ると、「量的緩和」「財政刺激策」という同じことを繰り返している状態です。
マクロ政策策定をミクロ的にコントロールするという試みは、惨めにもすべて功を奏さず、現在の経済危機には効果的ではないということが証明されました。
これは、マネタリスト(通貨主義者)であろうと、ケインズ主義者であろうと、納得するところかと思います。
ならば私たちはどうすべきか、それは、あなたが個人として、あるいは日本の企業として、売り上げをあげ利益をあげられるように、それぞれが日々ドアを開いて開放し、ミクロ経済を推進することです。
今年の「S&P500」を見るとわかりますが、非金融企業からの株式資本利益率は20%を超えています、2%の成長しかない経済状況で、20%を超えているのです。困難に直面した場合に経費を削減し、従業員の数を減らすなど、すみやかに柔軟に対処できる企業は強いのです。つまり、ミクロ経済は強いのです。
政府が同じような困難に直面し、それを打破するためのミッションをリードする時に最初に行うのは、もちろん財政刺激策(景気刺激策)ですが、それは「いつか戻ってくると思っているお金を使うこと」です。そのような財政刺激策が奏功せず、次に行うのは紙幣を印刷することです、それも大量に。
政府の干渉がない場合に経済がどうなるか、ベルギーが生きた証拠なのでご紹介しましょう。ベルギーではこの2年間政府が無いに近しい状態が続きましたが、その間、どのマクロ経済指標もよくなりました。
*アインシュタインによる“Insanity: doing the same thing over and over again and expecting different results.(狂気。それは異なる結果を期待して、同じ実験を繰り返し続けることだ)”より
■各市場予測に迫る~株式、FX、商品市場~
大野 : 第4四半期の株式市場について伺います。市場予測をお願いいたします。
ステーィン : シーズナリティ、伝統、両側面から見て、第4四半期の株式市場が1年のサイクルの中で最も強いと私は予測します。過去のデータからも、82%の結果において、年の終わりの12月が最もポジティブな時期というのがわかっています。
とはいえ、今年は12月がアメリカ大統領選の直後なため<財政の崖>にある点は、例年と異なります。恐れるほどに悪くならない可能性もありますが、<財政の崖>にあってポジティブな見通しを安易に出すのは難しいと考えます。
アメリカ大統領選の後、年末に向けて我々も予測を修正する可能性もありますが、第4四半期の株式予測については変わらないでしょう。
大野 : 次にFX市場、商品市場についてはいかがでしょうか?
ステーィン : ドルは選挙と正の相関関係にあるので、ドルは強くなります。金利は上がると思いますし、限界資本コストは日々増加していくと予測します。
その観点から、金については、より低い成長率と上昇する金利の環境の中で価格を維持するのは非常に難しいと予測します。
原油と天然ガスはプラスになり、金と銀は同じかマイナスになると思います。来年は<ブーム市場>になりますので、私たちは小さな予測修正をしていくことになるかと思います。
大野 : アメリカ経済はいかがでしょうか。復活の兆しはありますか?
ステーィン : 回復する可能性はあると思います。しかし<財政の崖>に組み込まれた緊縮政策からの影響はあるでしょうから、市場がどのように回復・成長するかをよく見る必要があります。アメリカ経済は加速的に成長することは難しいでしょうが、2013年は1.5%~2%の成長を維持すると思います。
大野 : ではユーロ圏の話しに移りましょう。悪化しているように見えますが、ステーィンさんの予測はいかがでしょうか?
ステーィン : ユーロ圏の活動は著しく減速しました。財政赤字は第4四半期の最後まで加速的に増え続けるでしょう。来年の予測は、第1四半期と第2四半期で成長が底を打つかもしれません。フランスも財政赤字目標に達することができないと既に発表しました。ギリシャはあと130億ユーロが必要で、スペインもまだ追加資金を要請する可能性があります。この2国については、トロイカ(欧州連合(EU)・欧州中央銀行(ECB)・国際通貨基金(IMF)からなる3者調査団)の判断が、現政府に大きく影響を与えるでしょう。
大野 : ご存じのように領土問題で日中および日韓の外交関係が悪化しています。また中東ではシリアの紛争が拡大する傾向にあります。地域紛争はマーケットに影響を与えると考えますか?
ステーィン : 地政学的なリスクがあるかどうかという観点でのみ回答しますと、そのリスクはないと思います。これはマーケットへの影響というよりは、政治面の問題です。政治の問題は基本的にマーケットには関係ありません。
ですが、中東問題はエネルギーに関係する点で違います。中東での紛争はエネルギー関連において世界経済にインパクトを与えています。イスラエルとイランの間も、解決をみるかまたは落ち着くまで影響は続くでしょう。
■「日本化」が進む世界経済、そして危機がもたらす「変化」が期待できる2013年以降について
大野 : 今回のレポートの特集、<「日本化」が進む世界経済>について伺います。世界経済の「日本化」とはどのようなものでしょうか?
ステーィン : 最も考えられるシナリオとして「日本化」と表現しましたが、これは時間稼ぎの金融政策のことを言っています。
「日本化」という言葉を使うのは、フェアでないかもしれませんが、エコノミストとして人が想起しやすいストーリーを語れなくてはいけませんのでご容赦ください。
財政破綻への対処に紙幣を印刷することに基づいたマクロ政策を実行している限り、「日本化」の可能性は日々増していきます。つまり、お伝えしたかったのは、借金から逃げることはできないということです。
実際我々は既に「日本化」の状態に入っています。過去10年間ヨーロッパもアメリカも毎年の経済成長率が前年よりも低くなる現象に陥っているからです。
第二次世界大戦後、日本の名目GDPの成長は7%ありましたが、今では3%にまで下がっています。失業率も上がり、"pretend and extend" (時間を稼いで引き伸ばし、危機がないふりをする)の金融政策は、政治問題として深刻度を増してきています。
大野 : 日本は20年間も景気後退から抜け出せておりませんが、そこから得る教訓は何でしょうか?
ステーィン : 日本は今年の3月までインフレ目標を設定しませんでした、これではあまりにもインフレ目標について消極的すぎると言えます。また株式の持ち合いの慣習もよいものとは思えません。
日本はもっとミクロ経済に力を入れて、経済を「解放(liberate)」しなければなりません。これほど円が強いのにも関わらず、日本はデフレになる一方です。もっと競争のある、競争のできる経済になるべきだと、私は思います。
大野 : GDP2位になった中国ですが、習近平氏の国家元首就任後をどう予測されますか?現在中国経済は減速しています。
ステーィン : 中国のリーダーが変わった後の経済については、大いに懸念があります。つい最近、現政府が莫大なお金を隠していたことがニュースになりました。中国は他の国と同じように、非常に成功した国から、「変遷」の時期に向かって移行していくと思います。
より健全な経済活動を目指すには競争を増やさなくてはいけません、そしてそのためには資本市場を拡大させる必要があります。投資をする経済活動が充分にないと、競争が成り立ちません。
私の予測では中国はさらに減速し、世界的な経済視点から見て失望を感じさせる可能性もあると考えます。それでも、他国と比較すると経済成長率は高い数字を保つでしょう。しかし、中国の新しいリーダーにとっても残念な結果になる可能性はあると思います。
大野 : 2013年に向けたポジティブな話題はいかがでしょう?
ステーィン : 世界経済についてこれほどポジティブになったことはありません。
変化というものは、政治家が何か間違ったことをしているとを認めてから生じるものではありません。
変化というものは、危機が来たときに生じるものです。危機のときにイノベーションが生まれます。そうする必然性が出てくるからです。変わりたいから変わるのではなく、変わらざるをえないから変わるのです。
これを念頭に置くと、我々は皆同じ境遇にあることがわかります。世界の皆が危機を感じています。ドイツ、デンマーク、オランダも然りです。
危機は既に入り口の最初の扉を通りすぎて進んでいます、ヨーロッパでもアメリカでも中国でも。
これは非常に良いニュースです。景気の谷あとには、必ず飛躍的な成長が起きるからです。
換言すれば、2013年は移行期と言えると思います。より良い状態への移行時期です、不安定さ(volatility)が増す移行期になるでしょうが、そのあとは必ず良くなります。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サクソバンク本社 チーフ・エコノミスト ステーィン・ヤコブセン氏
1989年コペンハーゲン大学経済学部を卒業後、シティバンク(コペンハーゲン)に入社。その後、ハフニア・マーチャント・バンクに移り、セールス&オプション責任者に就任。92年にチェース・マンハッタン(ロンドン)のバイスプレジデントとなり、スカンジナビアセールス責任者を務めた後、チェース・マンハッタン・プロプリエタリー・トレーディング・グループへ。95-97年にスイス銀行(ロンドン)で自己売買トレーダーおよびフローデスク責任者、1997年にはクリスチャニア(現ノルディア)銀行(ニューヨーク)でFX&オプショントレーディングのグローバル責任者となり、1999年にUBS(ニューヨーク)のグローバル・プロプリエタリー・トレーディング・グループのエグゼクティブ・ディレクター。その後サクソバンク(コペンハーゲン)のCIO(最高運用責任者)、リムス・キャピタル・パートナーズのCIOを経て、2011年3月より現職。自己売買とオルタナティブ投資の分野で20余年の経験を有す。
国際ジャーナリスト 大野和基(おおの・かずもと)氏
東京外国語大学卒業後、1979年に渡米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学んだ後、ジャーナリストの道に進む。以来、国際情勢の裏側や医療問題に関するリポートを発表するとともに、ジョージ・ソロス氏や元CIA長官、映画監督マイケル・ムーア氏、えひめ丸事件の乗客、北朝鮮に拉致された曽我ひとみさんの米国人夫ジェンキンス氏の家族など、要人・渦中の人物への単独インタビューを次々と行ってきた。単独での海外現地取材が圧倒的に多く、年間フライト数は80回を越える。
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