source : 2013.01.05 Business Journal (ボタンクリックで引用記事が開閉)
クリスマス商戦真っただ中の2012年末、取次(出版物の卸業)から送られてくる大量の本が店頭を賑わせている書店宛てに、突如2枚のファックスが流れてきた。「武田ランダムハウスジャパン 対応のご案内」。そこには、同社の自己破産を申請に伴う、書店における商品の取り扱い方法などが記載されていた。
12年12月14日、武田ランダムハウスジャパンの破たんの報が出版業界を駆け巡った。久々に知名度の高い出版社が倒産に至った。同社はもともと、講談社とアメリカの出版社・ランダムハウスとの合弁会社「ランダムハウス講談社」として設立された出版社。その後、ランダムハウスの経営不振により、両社の合弁が解消される際に、社長の武田雄二氏が全株式を引き取り、10年に武田ランダムハウスジャパンとして再出発していた。しかし、年商13億円を叩き出すような業績のピークはとうに過ぎ、業績は悪化し、今回の措置となった。
少しずつ中小の出版社が廃業に追い込まれていく中で、いよいよ大手も安穏とはしていられない状況が来ていると、業界は騒然としている。ある出版社の営業幹部は言う。
「主婦の友社が、どうも厳しいようだ。大日本印刷が親会社である以上、潰れることはないだろうが、決算も赤字で、すでに10人以上もリストラされているほか、経費の25%削減など経営改善を求められているらしい。また、神保町にある別の出版社は親会社から売りに出されてしまっているとも聞いた。今年からは出版計画もシビアになるようだ。それに、ある講演会で、新人物往来社の飯田日出男社長が下期の出版計画を3割減らしたと話していた。その理由は、本が売れないからだという。そして、今後はもっと売れなくなるとも付け加えていた。その後すぐに、親会社の中経出版との合併を発表した。こうした業界の先を見越しての合併だろう。飯田社長が言う通り、12年は本当に本が売れなかった。新刊書籍が6〜7割返品されるのも当たり前になってしまっている……」
また、別の出版社の営業担当者はこう話す。
「ある統計では、出版社の倒産件数が最も多かったのは09年。その後は減少し、11年に起きた大震災の年でも、大きな出版社の倒産はなかった。だが、12年はまた少し増えている。日本出版社の自主廃業が目立ったところだ。これは氷山の一角で、資金繰りで頭を悩ます中小出版社の経営者は多い。後継者もおらず、会社を売りたいと考える経営者も増えているようだ」
これまでも出版不況と言われて、「本が売れない」「本が売れない」と業界は嘆き続けた。だが、それでも当時はまだ余裕があり、どこか他人事のようでもあった。しかし、現状を語る、前出の出版社営業の表情は硬く、余裕すら見受けられない。まさに崖っぷちの状況にあるのだ。
出版界の統計データを調査する出版科学研究所によると、12年1〜10月期までの書籍・雑誌の推定販売額は前年比3.2%減の1兆4578億円と、大震災の影響で落ち込んだ11年の実績を下回るかたちで推移している。落ち込み幅は書籍よりも雑誌のほうが大きく、書籍は同2.3減、雑誌は同3.9%減ほど。11月期、12月期が11年と同水準で推移したとしても、12年は1兆8000億円には届かず、1兆7000億円台に落ち込むことが予想されている。しかも、3年後には1兆4000億円台にまで減少することまで予測されている。
同研究所の統計データや出版社の状況からみると、最も深刻なのが雑誌だ。東日本大震災の影響で11年は前年比6.6%減と大幅にマイナスとなったうえ、9843億円とついに1兆円の大台を割った。その年よりも、12年の実績は悪いのだ。出版社と取次との仕入れ部数の交渉でも、削減され続けている雑誌は多いようだ。
ある雑誌出版社の営業担当者は嘆く。
「まず雑誌は、コンビニエンスストアでさえも売れなくなった。当然、書店でも売れていない。増数したくても、配本する書店が見当たらないという状況だ。アマゾンなどのネット書店くらいしか、もう配本が増える要因はないのかもしれない。それに、売れないからといって、ある大手取次会社のように雑誌の返品上限を決めて、書店ごとの返品数に応じて、次からの入荷部数を削るというやり方は、手荒い気がする。確かに、この取次は主要取引書店をライバルの会社に奪われてしまったにもかかわらず、仕入れ部数は多いし、返品も多かったのだけど……」
だが、利益が出ない苦境に立つのは出版社ばかりではない。取次も窮地に陥っているのだ。例えば、中堅取次のひとつである太洋社がリストラを発表した。60人ほどの希望退職者を募ったうえ、本社を東京・秋葉原に移し、物流機能も埼玉の戸田地区に集約させるというもの。また、11年には栗田出版販売という業界4位の取次が本社の移転と同時に、社員のリストラを行っている。出版社、取次、書店が1冊の本をレベニューシェアする出版界では、取次の取り分は7%と薄利なため、ある程度の売り上げ規模を維持しないと存続できない。
「太洋社のリストラには社員の25%程度、およそ50人が募集に応じたようだ。中堅どころの課長クラス以上がほとんどいなくなる。本当にこれでもつのだろうか? それに同社の専務が反発を買うような発言をしたため、書店がトーハンに帳合変更(取引を変更すること)する動きがみられる。取次の生命線は書店の販売力。このままではどんどん疲弊していくだろう。それと、業績不振を社員のせいにするなど、問題は社長自身にもある」(大手出版社営業幹部)
「明文図書という法律・経済の専門取次が、12月にも自主廃業するのではないかという噂が出た。慌てた同社は11月に『今後の事業方針について』と題した文書を取引先に送付した。そもそも、事業譲渡を模索していたようだが、それが破談となってしまい、今回の噂につながったという。いずれにせよ、経営者自身に事業継続の意思が薄いように思える。やはり、事業規模の小さい取次の経営は苦しいのだろう」(別の出版社営業)
出版社や取次よりも深刻なのは書店。閉店するのは中小の地場書店が多く、年間で1000店前後が減少しているという。ここでは書店の苦境に多くは触れないが、書店店頭の売上データをみていても、前年割れが続いている状況だ。
出版社、取次、書店は業界三者といわれ、1冊の本で一緒に飯を食っていく仲間だった。しかし、昨今では、それが困難になってきている。そのひとつの証左が、大日本印刷による書店や出版社への投資である。もう、業界三者外から資金を注入してもらわなければ、商売できなくなりつつあるのだ。それは1冊の本の利益配分にも問題があるのだろうし、その利益配分に合わせた各社の仕事の仕方にも問題があるのだろう。
出版業界でも取次会社主導の返品減少によりマージンがアップする制度など、生き残りの施策を模索している。だが、その手法もまだ手探りで、大きな成果が得られているとは聞こえてこない。「本当に本が売れない時代」は、もうそこまで来ている。年度末に売上の帳尻を合わせるような企業のお遊びなど、やっている暇はもうない。
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