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2011/02/13


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【ドラマ・企業攻防】ベンツに東レの炭素繊維 軽量化切り札、日本の独壇場

source : 2011.02.12 産経ニュース (クリックで引用記事開閉)
 鉄より軽い上に丈夫で、「夢の素材」と呼ばれる炭素繊維が自動車にも使われ始めた。世界最大手の東レは、独ダイムラーと合弁会社を立ち上げ、量産モデルに採用する計画だ。燃費性能を大きく左右する軽量化だけでなく、コーナーリングなど走りも進化する。原料コストが高く、加工が難しいなど課題も多いが、日本メーカーが世界シェアの7割を握っており、日本経済のカンフル剤となる可能性を秘めている。

■走りも進化

「車体の軽量化の解決策になる」

東レの小泉慎一副社長は1月24日に開いたダイムラーとの合弁会社設立の発表会見で、こう力説した。

3月に合弁会社を設立した後、ドイツに工場を建設し、炭素繊維を使った部材を製造。ダイムラーが2012年に発売するメルセデス・ベンツの上級車「SLクラス」に採用する。

年間生産台数が数万台規模の量産モデルへの採用は初めて。他の自動車メーカーへの供給も視野に入れているという。

限定車では、富士重工業が昨年12月下旬に発売したスポーツカー「インプレッサ WRX STI tS」のルーフ(屋根)に東レの炭素繊維が使われている。従来の鉄製のルーフに比べ重量は半分の5キロしかない。

富士重の航空宇宙事業部は、米ボーイングが開発中の最新旅客機「787」で、炭素繊維を使った主翼部の製造を担っており、そこで培った構造設計のノウハウと東レの成型技術を結合し開発した。

「屋根の軽量化で車両の重心が低くなり、キビキビとハンドルを取り回せるなど、走行性能のアップにも貢献している」。富士重幹部は炭素繊維採用のメリットを強調する。

■高コスト・難加工

炭素繊維は鉄に比べ4分の1の重さしかなく、強度は10倍に達する。自動車の各パーツに採用すれば、約3割もの軽量化が可能といわれている。しかもさびず、耐熱性も高い。

だが、いいことずくめではない。原料価格が割高なうえ、部材の製造には手間暇がかかる。特殊な熱処理でほぼ100%炭化させた繊維を布状に織り、金型に入れ、樹脂を流し込んで成型する。樹脂が固まるにも時間を要し、大量生産の障害になってきた。

「詳しくは企業秘密」。担当者は固く口を閉ざすが、東レでは樹脂の組成や流し込み方を工夫するなどで、成型工程の所要時間を従来の30分から5分に大幅に短縮することに成功。これがダイムラーとの合弁の決め手となった。

それでも、鉄に比べると、「価格は1桁違う」(東レ)という。ダイムラーが量産モデルに採用できるのも、「1千万円を超える高級車が多く、コスト吸収が可能なため」(関係者)というのが実情だ。

■新規参入に高い壁

「期待のしすぎは禁物だ」。東レの日覚昭広社長は、自らを戒める。

東レが世界で初めて炭素繊維の商業生産を始めたのは40年前。だが、1兆5千億円超の全売上高のうちわずか700億円弱にすぎず、微々たるものだ。

しかも炭素繊維事業は20、21年度に立て続けに赤字を計上した。需要拡大を期待し生産設備を増強したところに世界同時不況に襲われ、さらに独占供給契約を結んでいる「787」の開発遅れが直撃した。

炭素繊維の世界市場は現在約3万トン。風力発電装置の羽根など産業用が6割、ゴルフシャフトや釣りざおなどのスポーツ用品が2割強、残りの2割弱を航空機向けが占める。

生産規模で圧倒的な自動車への採用が広がるかが、市場拡大のカギを握る。東レでは、「500万円の高級車3千万台で1台あたり10キロの炭素繊維が使われるだけで、市場規模は倍増する」とみている。

炭素繊維市場では、東レに加え、三菱レイヨンと帝人の日本勢が“3強”を構成し、圧倒的なシェアを占める。三菱レイヨンも、独BMWが15年に発売する電気自動車(EV)に部材を供給する計画で、自動車向けの拡大に余念がない。

炭素繊維は高い技術の積み重ねが必要で、新規参入の壁は高い。中国が国を挙げて開発に本腰を入れているが、みずほ証券の高橋弘彦シニアアナリストは、「日本勢の優位は当面揺るがない」とみる。

自動車への採用拡大による量産効果に加え、製造工程のさらなる短縮など技術革新で巨大な需要をたぐり寄せることができれば、日本勢の独壇場となりそうだ。




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